そう、それは晴れた日でした。
雲ひとつない快晴で、人間世界がよーく見渡せたものです。

いつものように万華鏡であちこち見回していると、
繁華街の中程にあるブティックで、
この少年と店のオーナーが何か、言い争っておりました。

少年は真剣そのもので、時折、その瞳に殺意が宿るほどでした。
私は、この只ならぬ異様な空気に、暫くの間見ていることにしました。

初めの内こそ、オーナーの方も相手にしておりませんでしたが、
余りの少年のしつこさに腹を立てて、奥に引っ込みかけました。

すると、突然少年が叫ぶのです。
「今あなたが引っ込むと、この女性は僕の物になりますょ!」

呆れたものです、なんと言う詭弁!オーナーも又、呆れ果てていました。
手の甲でもって、“シッ、シッ!”と追い出しています。

何かしら、私も又追い出されているような錯覚に陥りました。
万華鏡を動かして、早速に他の場所に移しました。

こんなくだらない事に時間を費やす程、私は暇ではないのですから。
しかしながら、どうにも気になります。
気もそぞろに、なっております。
で、思い切って、ブティックに戻りました。

「とに角ね。何と言われようとも、ダメなのよ。
ディスプレィなんだから、売り物じゃないの。
あんたねぇ、常識ってもんが、ないの?
製造元を教えてあげるから、そこに行きなさい。」

「いや、ダメなんです!
これです、この女性なんです。
この人じゃなきゃ、ダメなんです。」
呆れたことに、未だに押し問答を続けていました。

少年は、真剣そのものです。
オーナーもタジタジのようです。
とうとうしびれを切らせたオーナーは、サッサと奥に引っ込みました。

少年は暫くの間、考え込んでいました。
まさかそのまま持ち去りはしないだろうな、と私は目を凝らしていましたが
「また来ます!」と、ペコリと頭を下げて立ち去りました。
礼儀正しい少年ではあります。