青年の様子を見て舌打ちすると、スーツの男は他の男に告げた。

「お前達は追え!」

そして、青年に近付くと、蹴りを入れた。

「役立たずが」






「な、何なの!どうなっているの!」

パニックになる真理亜に、浮浪者は言った。

「やつらの正体は知らない。しかし、この国を牛耳っているのはわかっている」

再び隠れる場所を見つけると、資材置き場の片隅に身を潜めた。

「お、お兄ちゃんは!どうなったのよ!」

真理亜の口を塞ぐと、浮浪者は話し出した。

「彼は恐らく、俺と同じように改造された。そして、脳手術を受け、やつらの人形になったのさ。俺は、脳手術を受ける前に、逃げれた。ちょうどその時、混乱が起きてね」

「改造?脳手術?」

落ち着いた真理亜から、手を離すと、浮浪者は数十年ぶりに素性を話し出した。

「プロ野球選手を目指していた俺は、肩を痛めてしまった。自暴自棄になって、野球をやめた。そんな時に、やつらが来た。」




(和幸!負けるな!まだやれる!何度でも、何度でもやり直せる)

夢を諦めた少年に、毎日励ます父親。

(素材としては、申し分ない)

近付く闇。


目覚めた時には、彼は彼ではなくなっていた。




「拉致され…気付いた時には、人間ではなくなっていた。死のうとしても、死ねない体になっていた。最初の頃は、追っ手に遭遇しても何とかなったが…今のやつらは、俺ではどうしょうもなかった。今は、逃げるだけしかできない」

「それも、できませんよ」

資材の向こうから、スーツの男の声がした。

「他の者は来てないのですか。やれやれ」

資材が真っ二つに割れると、2人の前にスーツの男が現れた。

「せっかく、素晴らしい力を与えられても、使えなければゴミですね」

「チッ」

浮浪者は、真理亜を後ろにやると、構えた。