「!」

真理亜は、声にならない驚きの叫びを上げた。

浮浪者は無傷であったが、その姿は異形の者へと変わっていた。

黒いマフラーを靡かせて。

「飛び降りる時の風で、変身したのですね」

スーツの男は、浮浪者の腰で回るベルトを睨み、

「旧型が!」

唇を噛み締めた。

「逃げるぞ」

浮浪者は、真理亜と子犬を抱えたまま、走り出した。

その速さは、人間のスピードではなかった。

「ど、どうなっているのよ!」

「やつらは、親型だ。俺では倒せない」

浮浪者は全速力で、力の限り逃げた。

数分後、人混みを避け、取り壊される予定のビルを見つけると、その中に飛び込んだ。

「どうなっているのよ!」

ビルの一室に入ると、子犬を抱く真理亜を下ろし、浮浪者は気配を確認してから、変身を解いた。

「そ、それに今の姿!」

真理亜は部屋の角に逃げなからも、強がって見せた。

「俺は数十年前に、やつらに拉致されて、改造された」

「改造?」

「チッ」

浮浪者は舌打ちすると、真理亜を庇うように移動した。

「改造って何!?何なのよ!」

「それは、あなた達を守る為ですよ」

部屋の扉がこじ開けられると、スーツの男が中に入ってきた。その後ろには、数人の男がいた。

「軍隊を持たないこの国が、何故平和なのか?強大な力を持つ同盟国が何故、この国と手を結んでいるのか…わかりますか?」

スーツの男の言葉よりも、真理亜はその後ろにいる男の1人に目がいった。

「お兄ちゃん!?」

それは、紛れもなく警察官になった近所の青年であった。

「ま、真理亜…ちゃん?」

と青年がいった瞬間、姿が変わった。

蜘蛛を思わす異形の姿に。

「うわああっ」

姿が変わった瞬間、青年は苦しみ出した。

「脳手術が甘かったか」

もがき出した青年に、スーツの男が目をやった隙に、浮浪者は真理亜を抱え、窓を突き破って脱出した。