「謝ってよ!この子に、謝ってよ!」

「何を言っているのか?」

スーツの男は足を止め、笑った。

「まだ子犬だよ!」

「はははは!」

スーツの男の笑いが、大笑いに変わった。

「チッ」

浮浪者は舌打ちした。

「え!」

次の瞬間、真理亜は浮浪者に抱えられて、雑居ビルの階段を上っていた。




「まったく」

スーツの男は、破壊したビルの壁を見て、ため息をついた。 そこには、真理亜がいたはずだった。

「やつと接触した女子高生。やつの協力者と見なし…始末する。それでいいですね」

スーツ男は足の埃を払うと、ビルの屋上を見上げた。



「え!え!え!」

真理亜が驚いている間に、浮浪者は屋上についた。

「ご苦労様」

そこには、スーツの男が先にいた。

「逃げろ!やつの目的は、俺だ。何とか引き付けておくから、その間に」

浮浪者は、真理亜を下ろすと、後ろに庇った。

「無駄ですよ」

いつのまにか、真理亜の横にスーツの男が移動していた。

「女子高生…受験苦にして、飛び降り自殺…でいいでしょう」

スーツの男は、片手で真理亜を投げた。

「!?」

その様子を振り返りながら見た浮浪者は、何故か走り出していた。

(何故走る?)

心が自問した。

(できるだけ、人に関わらないようにしたはずだ)

(それとも…話しかけられて嬉しかったからか?)

(違う!)

最後の心の声だけが、彼の声ではなかった。

「フン」

浮浪者の行動を見て、スーツの男は鼻を鳴らした。


屋上のフェンスを飛び越え、落下する真理亜を掴み抱き抱えた浮浪者は、そのまま地上に向けて落ちていく。

「え!」

驚く真理亜の耳に、風の音が響いた。

鈍い音がして、数秒で地面に激突した浮浪者。

しかし、彼は真理亜を抱き抱えたままで、地面に足を食い込ませながらも、立っていた。

「その姿…いつ見ても忌々しい」

前に立つスーツの男が、顔をしかめた。