「この国は、かつてない財政難に陥り、誠に申し訳ございませんが、国民の皆さんにご負担を」

連日繰り返す総理の言葉に、政治に興味のない女子高生である橘真理亜も、聞きあきていた。

欠伸をすると、その言葉は忘れてしまった。

毎日、政治は行われ、新しい法律ができたとしても、人々の関心は薄い。

一部、政治に快感を感じる一部の有権者だけが、自らの票の価値を味わっていた。

全国民中流階級と言われながらも、ふと町の裏側を見れば、闇は溢れていた。

しかし、毎日の授業と受験というチケットのようなものの為に過ごしている高校生には、関係のない世界に思えた。

受験に失敗しても、他の学校を受け、普通に過ごしていけば、ある程度の生活はできると思っていた。

贅沢さえしなければ…。

そして…。

「おはよー」

真理亜は政治を忘れ、学校へと消えていった。





「総理」

演説を終えた総理の前に、当選数十回…怪物と言われている老獪な政治家が姿を見せた。

「これはこれは」

国会議事堂の廊下で、足を止めた総理は、政治家に頭を下げた。

政治家は頷くと、頭を上げた総理に言った。

「増税よりも、少子化が問題であるぞ」

「わかっております」

総理は頭を上げ、

「少子化故の増税。民衆が多くなければ、我々がこの社会を牛耳る意味がありません」

口許を緩めた。

「わかっておればよい」

政治家は、総理に背を向けた。

「この国は、我々の第一歩に過ぎない。我々の理念が、世界に広まった時…真の平和が始まるのだよ」

「わかっております」

総理は再び、頭を下げた。

「ならばよい」

そのまま去ろうとする政治家の背中に、総理は目を細めると、一呼吸開けた後に、言葉を発した。

「しかし…あなた様の古い知り合い達は未だに、何やら動いているようで」

「!」

総理の言葉に、政治家は足を止めた。