校舎裏。
 もう何度目かもわからない、放課後の『行事』をすませた僕は、死んだように壁に、寄りかかっていた。聞こえてくる大粒の雨と校舎がおり成す、BGMに心をゆだね、雑草についた水滴を指に絡ませもて、遊んだりしてみる。
 不自然に着崩れた制服は、すでにそして存分に雨粒を吸い込み、もとの黒をさらに深いものへと変えている。だからと言って、動ける状態でもない僕は、そのしみを広げていく雨を受けつづけていた。まぁもう慣れてしまったが。
 ふと空を見上げてみる。
 黒い雲から大粒の雨が吐き出されている。なんとも今の自分にはお似合いかもしれない。
 そんな悲壮感にも慣れ、それが、諦めになり始めていた頃、校舎裏につづく一本道から白い傘が、ひょこりと出てくるところが見えた。
 ここは校舎裏であり一本道であるということは、人が来るのは稀であり、ここで放課後を三週間ほど過ごしてみて、はじめてのことであった。
 その白い傘はまっすぐ僕の方に歩いてきた。迷いなく。救いを求めるように。
 その白い傘は僕の伸びきった足の前に、ぴたりと足をそろえると、少し傘の角度をあげ傘の中身が顔を出した。
 僕は息を飲んだ。
 中にいたのは小さな天使だった。少なくともはじめてあった僕にはそう見えた。
 その天使は控えにちょこっとついた唇を開いてこういった。

「何で君は生きているんだ」

 これが僕が偽天使から言われたはじめての言葉であり、すべての物語の始まりであった。