「ちょうど良かった。あなた方からも姫様に言ってください、危険なのでお屋敷に戻るようにと。」
「姫様?」
夜神はいまだくっついて離れない少女に目を向けた。
それに気付いた少女は夜神に柔らかく笑いかけた。その笑い方は上品で、この少女が姫だということが納得できる。
だが、少女はすぐに笑顔を崩し、怒っているように頬を膨らました。
「神夜ちゃんまで戻りなさいって言わないでよね!
私、お屋敷は暇だから嫌なの。ここでぶらぶら歩いていた方がいいわ。」
「しかし、危険なのは本当なんですよ。」
「嫌なものは嫌。」
そこで、少女はやっと夜神から離れたかと思うとそっぽを向いた。
それが絶対に戻らないという少女の意思だというのはすぐにわかった。
だからといって、説得を諦める夜神ではない。
「殺されますよ。」
「殺されない。私、強いもの。」
「相手をなめてはいけません。念には念をと言うではありませんか。」
「そんなの知らないわ。」
さすがに面倒くさくなってきたのか、夜神は呆れたようにため息をつく。
そして、少女に背を向けるとこう言い残してその場を去った。
「そうですか。ならば、あなたがもしも敵に殺されても、私達には関係ありません。あなたの自己責任となりますね。本当に死んでも知りませんよ。」
先程までとは打って変わり、冷たく突き放すようなその喋り方に少女は戸惑い、その間に夜神の姿は見えなくなってしまった。
土方も呆気に取られていたが、見回り中だったのですぐに夜神の後を追った。
少女はしばらく戸惑っていたが、急に叫んで城へと歩いていった。
「夜神、さっきのは言いすぎだぞ。」
「いいんですよ。彼女にはこうするのが一番、効果的なので。」
そう言った夜神は、懐かしむような笑みを零す。
「そういえば、知り合いのようだったな。」
「はい。昔、山賊に襲われていた彼女を助けたのです。」
そこで、土方は少女の言葉を思い出してみる。
少女は、その頃の夜神を無愛想だ、寒いだなどと言っていた。
「お前、昔は一体どんな奴だったんだよ。」
「どんな奴と言われましても・・・彼女が言った通りでしょうか。」


