丹朱の橋、葉桜のころ

その日、嬉しそうに帰ってきたサツキはボクを抱き上げて言った。


「お許しも出たし、ちょっとだけ、冒険してくる?」


そのようにしてボクは、初めて外の世界というものを体験した。

ガラガラと重たい引き戸の向こう側は、紅くまぶしい平手打ちをボクの眼球にくらわせた。夕焼けがキレイだと、サツキが言った。

抱きかかえられたまま見たものは、「そば処・流水庵」の軒先のどでかい狸だった。レジ下のヤツよりもさらに迫力がある。

さてはこいつが親玉かと、にらんだ途端、その狸の後ろをするりと艶めかしいトラ模様が抜けて行った。


彼女は……!