丹朱の橋、葉桜のころ

狸は、片手に酒どっくり、片手に大福帳、張り出た太鼓腹の下には大そうな陰嚢を持つ。

別に、うらやましくなどない。前に金玉をぶら下げているから前金、狸という響きから「他を抜く」だなんて、ヤツなど、くだらぬ駄洒落の塊である。

ボクはもう、本当に、そんなヤツ鼻にもかけずに、三度寝の態勢に入った。時々起きては、背広姿のお父さんを見送り、買い物に行くお母さんを見送り、おばあちゃんのテレビ批評に付き合った。

細心の注意を払ったおかげか、誰もボクの失せ物には気づかないようだった。

こうして安息の日である「流水庵」の定休日は、普段通りに過ぎて行った。



――そう、新緑が憂愁の紅に染まる、夕刻までは。