丹朱の橋、葉桜のころ

あの夜のことを思い出しながら彼女を追う。
青々と茂る低木をくぐった先は、池のほとりだった。

彼女は朱色の橋を渡った。
降り立った岸からさらに二手に分かれていたが、今度は橋とは言えない、コンクリートの板が渡してあるだけだった。


「怖いのかしら」


「怖くない」


ボクは水面を見ないように、彼女の後からそこを渡った。

木でできた小さな建物があった。彼女がそれは祠だと教えてくれた。

ボクらは祠をくるりと一周した。

対岸では、氷やラムネと書かれたたぼろぼろの布きれをぶらさげた茶屋が店じまいをしていた。その店の前の通りには、ずっと向こうから男女が歩いてくる以外に人影はなかった。