だが入った瞬間、私は、幽霊がいつもと違うということを敏感に感じとった。

「――」

 何故、そう思ったのか。
 初め漠然とした感覚だけが心に響いて、それからすぐに、私はその原因をつきとめた。

「あなた――」

 存在感がないのだ。

 幽霊に存在感などがあるのかどうかは、彼しか見ていない私にはわからないが、彼には確かに、彼がそこにいるということを感じさせる――そんな不可思議な感覚があった。
 けれど今、それはほとんど感じられなかった。
 初めて会った時のあの静かに固定された視えない力は、空に散ったようにかすかにしか感じられなかった。

 代わりに空間に充満するのはやるせない想い。

 ひどく頼りない、けれど胸をつまらせる、哀の色だった。