無言で出入口に向かおうとする俺の背中に、陽太が俺を呼ぶ。


「樹、どこに行くんだよ」


嫌々ながらも振り返る。


「…… 4組」


SHRが始まるまで、まだ時間はある。

行って、少し話をして帰ってくるだけなら――― 間に合うだろう。


俺が“4組”と言った理由がわかったのか、陽太の顔に笑みが溢れる。


その表情が、やけにムカついたので、それ以上告げることなく1組を出る。


4組前で無駄話しをしている適当な男子…… まおが怖がらないような男子に“木下呼んで”と頼んだ。


まおは俺がいる廊下に視線を移す。

“廊下に来い、用事がある”と言う、意味を込めて親指で合図する。


「どうしたの?」


朝以来の、まおの声。

ゆっくり、ソプラノの声が心地好い。


「今夜、行くのが遅くなりそうだ」


「どうしたの?」


心配そうな顔が俺を見上げる。

若干、身長差があるので必然的にまおは俺を見上げる形を取らざる得ない。