彼の息遣いさえ、自然に聞こえてきてしまう。


「ねえ、さゆ」


たった二文字の音が、彼の声で紡がれるたびに、心が温もりに包まれていく。


「まだ言ってなかったけど、俺さ、絵を続けることにしたんだ。親父に言ったら、俺の心配なんて百年早いってさ」


彼が八重歯を見せながら、穏やかに微笑んでいる。


それだけで私は幸せで満たされて、私はつられるように笑みをこぼした。


彼のお父さんらしい言葉が優しくて、気さくで元気のいい姿が目に浮かぶようだ。


「いつまでも一人で悩んでるからでしょ」


私はそんな笑みを誤魔化すように、前を向いて愛想無く言う。