後頭部を大きな手で押さえられ、身動きなどとれない。


そして、優しい温もりが私の唇に重なって、言葉を紡ぐことが許されない。


睫毛の先には、もう彼の伏せられた瞳。


そっと彼から解放されても、唇には彼の感触が残ったままだ。


初めてのことに思考がまったく追い付かない。


「もうそんなことは言わないで。意味が必要なら俺が意味になる」


彼は大切そうに私の濡れた髪を撫でながら、私の瞳を覗き込む。


そうして、二人の間に降る雨に交じって、大粒の涙が次々と零れ落ちた。


「さゆが必要なんだよ。いない日々なんて考えられない。俺だけじゃないよ。みんな、さゆが好きなんだ」