「何、言ってるの……?早く帰ろう」


彼の弱々しい声が、川と雨の音に消えかかる。


それでも尚、水分を含んだ学ランをおもむろにかがみこんで拾い抱える彼。


そうして、まるで壊れ物に触れるかのように、そっと彼の手が私の右手に重なった。


私の手は白く、雨粒にあたり冷たいのに、彼の手はあたたかく体温がしみ込んでいく。


その時、私は渾身の力をこめて、彼の手をなぎ払った。


「聞こえなかった!?最後にもう一度言う。帰るつもりはない。あなたにも、もう会うことはない」


自分の出しえる最大の声で訴えれば、川の流れの音よりも鮮明に響き渡る。