だから私は一度瞳を閉じて、カミソリを握る右手に力を入れ直した。
もう彼も関係ない。
家族も、私も、こんな障害から解放されるんだ。
私はやっとこの身体から苦しめられずにすむんだ……。
誰の世話になることもなく、本当の自由になれる。
そのためなら死に迷いなんてない。
私は確実にカミソリを近付けていった。
でも、数ミリのところで手が止まる。
手首に大きな雫が落ちたのだ。
鮮やかな黄昏色とは対照的に死人のように白く、この空間から浮いている手首。
でも、その皮膚の下に、しっかりと透けて見えたんだ、血を送る太い血管が。

