左手の指が器用にカバーを引き抜けば、あらわになった薄い刃が私の目の前で光を放つ。
私は大きく息を吸い込むと過ごしてきた空間を目に焼き付けた。
流れ込む風で自由に舞い踊るレースのカーテン。
見事なまでに黄昏に染め上げられた白いはずの壁のクロス。
反射する黄昏色は痛いくらいに目にしみた。
荒れて無惨な有様の床の上も、重たい空気も、私以外の全てのものは金色のように煌めいている。
最期に、こんなふうに沈みゆく太陽に包まれるのも悪くない。
彼が重なるんだ。
あったかくて、くしゃっとしたあの笑顔に。
メニュー