「じゃあ、俺戻るねー」
開け放たれたドアから彼の声が流れ込む。
のんちゃんは慌てふためいて立ち上がると、やばいと焦りながら小走りで消えていった。
そして、間もなく彼が軽いリズムを奏でて階段を上がってくる。
「ごめん、店ちょっと手伝ってきた。お待たせ」
申し訳なさそうに入り口に姿を現した彼は、その苦笑いさえも眩しく輝いている。
でも、さっき聞いた話を、あの寂しい笑顔を探そうとしてしまうんだ。
その太陽のような笑顔の中に。
彼は器用とはいえない人だから、きっと嘘は吐ききれない。
嘘を重ねて自分を守ってきた私と違って、彼の嘘は下手すぎる。
