私はテーブルの上の簿記のテキストに目を移し、借方の勘定科目の書き間違いに気付く。


私は消しゴムに手を伸ばすと間違った箇所をこすった。


段々と消えていく文字。


こすれて、薄れて、元に戻る。


元に戻ることが一番楽なんだ。


先に進むことは、変わることは、私にはこわい。


茜ちゃんにどんな言葉をもらっても、たとえどれだけ今の自分が嫌いでも、元に戻る方がよっぽどいい。


悩んで苦しむなら、夢なんていらないの。


彼の存在も、記憶も、この消しゴムみたいに消せたらいいのに。


あの桜も、幻も奪われていいから――。