「シン・・・貰って欲しいんだけど・・・」

5杯目のグラスを開けた時、あたしは朦朧とした意識でシンを呼び止める。

時間は閉店時間に近付いてる事もあって、客もほとんどいなかったせいか、シンはカウンター越しにあたしの前に戻って来た。

「これ、あげる」

カウンターの上に差し出した紙袋。

それは、雑貨屋のオーナーに貰ったペアのマグカップ。

シン達が使うのが正解だから、と両手で差し出す。

「は?何、これ」

「いいの、あげる」

「ミカコが買って来たんだろ?」

「うん、親切な人に貰ったんだけど・・・あたしが使う資格・・・」

そこまで言って、急に切なくなって涙が出そうになった。

「とりあえず、ごちそうさまでした。じゃ」

最後の言葉を濁して、席を立つ。

最後まで言ったら、涙が止まらなくなりそうだから。

迷惑かけちゃう前に、あたしは消えるよ。

フラフラする足取り。

飲みすぎたかな・・・。

座ってたカウンターに1万円札を置いてマスターにご馳走様でした、と軽く会釈する。

そして、シンとは目を合わさないように、あたしは小さな扉から外へ出た。