どのみち、彼女が思いを寄せるスタッフがあたしに好意を持ってるか何かでしょ。

だから、その彼を諦めるように説得する情報が必要なんでしょ?

じゃなきゃ、年頃の娘を持つ親や友達でもないこの子が、こんなにも喰らい付くはずないもんね。


「残念ながら――」

そう、前置きして

「相手がいたら、週末の当直を喜んで引き受ける独身の医者なんていないんじゃない?」

と笑いかける。

「好きな人とか――いるんですか?」

彼女は必死になって身を乗り出している。

一瞬、シンの顔が浮かんだけど、それはすぐ内線のブザーによってかき消されてしまった。

「――好きな人はいるけど、叶わない相手なの」

あたしは淋しげに笑って見せ、そして内線の受話器を手に取った。

通話が終わっても、彼女はもう何も尋ねてはこなかった。

すいませんでした、と小声で呟くと、俯いて次の患者のカルテを差し出した。