「ありがとうございました」

冷えたお茶に手を付けることもなく立ち上がる。

証拠なんて残すような男じゃないことは分かってた。

物凄く、頭が働く知能犯・・・。

そんな相手。

でも逆に、奥さんが言ってた通り、人前では決して近寄ろうとしなかった。

陰湿な男――。

入り口の、警察の赤いライトが弱々しかったように、中にいる人間も無気力だった。

ただのサラリーマン。

テレビや映画に出てくるような熱血漢は現実にはいないんだと、そう冷めた目で見回す。

何ともやりきれない思いだった。

あたしは小さく溜め息をつき、薄暗い階段へ歩き始める。

自分の運命は、自分で何とかするしかないのだ。

国家権力なんて、なんの当てにもならない。

諦めにも似た気持ちを鼻で笑い飛ばす。

あたしには、シンがいてくれるからいい。

それだけで充分。