寒い 寒い 寒い

美幸がわたしの背中をさすってくれてる。

「しっかりして。すぐに圭吾さんが来るからね。志鶴、あんた気持ちが優しすぎるのよ。何にでも同情しちゃだめなのよ」

暗い 暗い 暗い

幸せになっちゃだめなの

自分だけ幸せになっちゃだめなの


「志鶴!」

圭吾さんの声がする。

わたしを抱く手が、美幸の優しい手から圭吾さんの力強い腕に替わるのが分かった。

ごめんなさい。わたしじゃ役に立たない

震える手がわたしの頬を撫でる。


「志鶴、しっかりして。僕を見て。君じゃなきゃだめだ」

「ごめんなさい。わたしじゃだめなの。優月さんにはなれないもの」


わたし、何言ってんだろ


「バカなこと言うな。僕がいつそんな事を言った?」

「わたし、圭吾さんにあんな寂しそうな顔しかさせられない――道隆くんをあんな冷たい家に置き去りにした」


自分でも意識が錯乱してくるのが分かった。

自分のではない言葉が口をついて出る。


「卑怯だわ。彼のためと言いながら、結局は自分の幸せのために彼を見捨てた」