「常盤さんよ」

きかれる前にわたしは答えた。


「常盤? あいつ、今頃ここで何をやってるんだ?」


さあ?


『あんな奴、放っておけばよかったのに』

圭吾さんの心の声が聞こえる気がした。



家に入ると、みんなの顔に安心したような表情がありありと浮かんでいた。


「圭吾さん、酷かった?」

圭吾さんが親父と一緒に別室に消えてから、わたしは従姉の彩名さんにきいた。


「それがね、そうでもなかったのよ。みんなが覚悟していたよりもずっと機嫌がよかったの。ピリピリしてたのはこの一時間くらいよ」


あー すぐに着くはずのわたしがモタモタしてたからね


「でも志鶴ちゃんが帰って来てくれたから、これであの子も落ち着くでしょう」


ええ、そう

圭吾さんはわたしを決して怒らない。

だからみんな、わたしなら簡単だと思っているみたいだけど、圭吾さんのご機嫌取りってそれなりに大変なのよ。

わざとわがまま言って、甘えてみせて、最後にキスを奪われるんだから。