「お嬢さんは、僕にとっては鬼門らしい」

常盤さんは苦笑した。

「羽竜家と縁故を結ぼうと持って行った縁談を阻まれた上に、お父上が腕利きのジャーナリストとは!」


「今は海外勤務なので安心していいですよ」


「海外? どちらに?」

親父が赴任先を告げると、常盤さんは納得したようにうなずいた。

「お嬢さんが羽竜家にいるのは、それで。そこでは連れて行く訳にはいきませんよね」


そんな危ないところなの?


「報道に携わる者としては、やり甲斐のある場所ですよ。あなたはどうです? 将来は政治家でしょう? 常盤先生の敷いたレールを走るだけで終わるつもりではないですよね」

それは質問ではなく、断定だった。


常盤さんは困ったように曖昧な笑みを浮かべたけど、すぐに親父と政治談議を始めた。

熱っぽく語る常盤さんは、いつもの気取った顔ではなく、若く理想の高い人だった。

巧みに話しを引き出す親父もまた、仕事をしている時の顔だと思った。


「いやぁ、メモを取りたいくらいですよ」

親父が残念そうに言った。

「もちろん、これはオフレコですよね」

「ええ。父に知れたら大変だ」

「いつの日にか、あなたが大臣の椅子に座るまでこの記事は取って置きますよ」