「何から何まで申し訳ありません。では、お言葉に甘えて」

常盤さんは胸ポケットから名刺入れを取り出して、親父に名刺を渡した。

「わたしは常盤と申します」


「ほう。常盤道三先生の秘書――ご子息ですか?」

「ええ。息子と言っても妾腹になりますが」


『しょうふく』って何?


「母は正式な奥さんではなかったんだ」

わたしが分からないと悟って、常盤さんが言った。


つまり、愛人の子?


「いや、ご立派なものですよ」

親父が言う。

「確か腹違いのご長男は、全く畑違いな遊び人でしたよね。あなたが実質的な後継者だ」


「詳しいですね」

「ああ申し遅れました。わたしはこういう者です」


親父が差し出した名刺を見た途端、常盤さんは『えっ』と声を上げた。


「明和日報の三田さんって、あの……」

「ええ。五年ほど前に、お父上に関する暴露記事を書いて危うく首が飛びそうになった、その三田志郎です」