わたし達は、お互いに真っすぐ前だけを見て話した。


「いいのか?」

「構わない。羽竜の人達は、圭吾さんの家だけでなく、親戚の人達は、わたしを『お姫様』って呼ぶのよ」

「お前を?」

「そうよ。ジーンズとTシャツばっかの志鶴をよ。圭吾さんはとっても優しいのに、みんなは圭吾さんを怖いって言うの。圭吾さんの機嫌が悪い時は、わたしに執り成してほしいって言うの」

「志鶴」

「なぁに?」

「お前にずっと嘘をついていた」


意外な言葉にドキッとした。


「どんな嘘?」

「ママは自分の死期が近いと知った時、自分が死んだらお前を羽竜のお義姉さんに預けてくれと言っていた」

「そう」

「お前を手放すのが嫌で、今まで誰にも言ったことはない。父さんのわがままで、お前に寂しい思いをさせてきた」


ああ、だから……親父が時折見せたやましそうな顔は、そのせいだったんだ。

わたしは、足手まといなんかじゃなかった。

愛されて、必要とされてここにいたんだ。


「親父、ありがとう」

わたしはママの写真に目を据えたまま言った。