「掃除するところは、もうないぞ」


わたしはうなずいた。


「住んでいなかったから、きれいなものよね」

「そうだな」


写真の中から、笑顔のママがわたし達を見ている。


「ママとはどこで知り合ったの?」

「お前が今住んでいる町で。大型台風での災害の取材に行ったんだ。ママは大学の助手で、地元の歴史を研究していた」

「一目惚れ?」

「いいや。お嬢様然としていて、生意気な娘(こ)だと思った」

親父は懐かしそうに笑った。

「でも真っすぐで、気持ちの優しい人だった。笑顔が美しかった」


本当ね


「お姉さんの嫁ぎ先だと言って、ママはよく羽竜家に出入りしていた。不思議な家だったよ。台風が直撃したというのに、あの町は被害がなかった。隣町でも、羽竜一族の地所だけは無傷だった。すぐ横で大きな土砂崩れがあったというのに」

「分かるわ」


だって龍神様の土地だもの。


「普通の家ではない」

「知ってる」