冥王星

仕事を始めると、
またゲドウは話し始めた。

「なんでおまえは
愛される?」

ゲドウは筆を動かしていたが、
俺が何も応えないでいると、
筆を降ろした。

「それは俺が、
他者から最初に愛され、
そして俺も他者を愛したからだ。」

「おまえを最初に愛したのは
誰なんだ?親か?」

「最近、ぼんやりと、
思うことがある。

俺は大師様の実子なのでは
なかろうかと。」

「大師様とは?」

「あんたはここにこもりっきりだから、
俺がどこから来て何をしていたか、
知らないだろう。」

「この前、おまえが極東人であること
は言い当てたな。
それ以外、おまえに関して、
興味がない。」

「大師様というのは、
ここで言ったらオーベール師の
ようなお方だ。

俺は極東の島の霊山で育った。
誰の子だったのかは
わからない。

とくに興味もなかった。

俺の育った環境は特殊だったからな。
家族とか、親とか、
そういうものの存在をよく知らなかった。

それでも何の過不足もなかった。」

「俺とは正反対だな。
俺には家族がいたが、
それが俺にとって、大きな苦しみだった。」

「最近になって、
俺が大師様の実子ではないかという
疑念が出てきたのは、
この修道院に来て、
一修道士として存在してみて、
はじめてそう思った。

あの頃、気が付かなかったが、
俺は何かにつけて
他の僧侶とは少しちがった
扱いを受けていたように思う。

まず、むつきも取れていないような
赤ん坊はいきなり僧院には来ない。

だが俺は赤ん坊の頃からあの場所にいた。」

「ほう。それで、母親は?」

「母親はわからない。
それに、
大師様が俺の実の父親だったとしても、
師と弟子という関係に、
なんら変わりはない。」