冥王星

それから毎朝、
又三郎は工房に朝食を
持ってくる時、
俺にも、ゲドウにも
笑いかけた。

俺は微笑み返したが、
ゲドウは又三郎に
背を向けたままだった。

そんなことはかまわず、
又三郎は声をかけ続けた。

「おはよう、ミゲーレ、ゲドウ!」

そう言って去っていった。

背中に向かって微笑みかけられた
ゲドウの絵筆は止まった。



又三郎と俺は、
あまりゆっくり会う時間がとれない。

俺が宿舎に戻ると、
毎晩又三郎は俺のベッドにやってきた。
そしてくちづけだけした。

ある夜、又三郎は二段ベッドの
はしごに立ったまま
俺にくちづけをし、
そのまま寝ている俺の体を
抱いた。

又三郎の髪を撫でながら
小声で言った。

「ゲドウには、昼も夜も、
笑いかけているのか?」

「やってるよ。
でもゲドウが振り向いたことはない。」

「ふうん。
自分から要求してきたのに
おかしな奴だな。」

「どっちにしろ忙しいから
かまってる暇なんてないよ。」

「でもおまえの微笑みは
ゲドウに届いているようだぜ。」

「そう?」

「俺からはゲドウの顔見えるから。
後ろからおまえに微笑みかけられると、
なにかしら感じ取ってるようだな。」

「じゃあ、あながち無駄なことでも
ないんだね。」

「そうだよ。」

もう一度キスして又三郎は
帰っていた。