俺はまた階段を降り
ゲドウの工房へ戻った。

ゲドウは仕事の準備を
すっかり整えていた。

「ローブを脱いでこれを
まとってくれ」

白い布を渡された。
ゲドウの手で俺の右肩から
腰にかけて布をまとわされた。

そして、人の頭の大きさほどの
砂袋を持たされた。

「これを、こう、左手にもって
ぶら下げるんだ。
右手には剣だ。
目線は、砂袋からそらすんじゃないぞ。」

うん、よし、よし、などと
言いながら、ゲドウは
立っている俺の両足の床に
しるしをつけた。

窓から入る光を気にしていた。
そういえば、ここの窓には
ステンドグラスはない。

そして、大き目の紙の束を手にし、
木炭で俺の姿を描きつけていった。

ゲドウの動きは非常にすばやかった。
俺の姿をあらゆる角度から描いていった。
後ろからも描いた。

すばやく木炭が紙をこする、
サク、サクという音だけが
工房に響いていた。

「手がさがってるぞ」

砂袋は重く、ゲドウの指示したように、
前に突き出すようにして
持ち続けるのは苦行だ。

腕が小刻みに震えてくる。

「今度は剣がさがってるぞ」

ゲドウはまさに外道。

俺は苦しみに耐えて
震える腕で砂袋を持ち続ける。

いつまで続ける気なんだ。
ずっとこのままなのか?

ゲドウは相変わらず、
正面、斜め右、左、横、
から描き続ける。

俺の腕は限界を超え、
砂袋ごと落ちた。

「ああ!」

ゲドウが舌打ちした。
床には砂がこぼれた。

「おまえ、そんな、無理だよ。
ずっとこのままなんて。

定期的に休憩を入れてくれないか?」

俺は左腕をさすりながら言った。

「仕方ねえな。
じゃあ、20分おきに5分の休みをやろう。」

「20分は無理だ。
この砂袋、重いんだぞ。
10分だ。」

「じゃあ、15分にしよう。」

俺は自分のローブから
懐中時計を取り出して
砂袋にくくりつけた。

こうしておけば、
時間を見るのに、
砂袋から視線をはずさなくてすむ。

「ちょっと休ませてくれ。」

俺は張った左腕を自分で
もみほぐす。

その時、床に散らばった、
紙を目にした。

ゲドウは俺の姿を
木炭で描きつけては
床に投げ捨てていたのだ。

踏まれているものもあった。

墨の黒い線で簡単に
描かれていた。
しかしその形は正確だった。

「ほら、続けるぞ。」

「わかったよ。
15分たったら教えるからな。」