俺は階段を昇りに昇って、
厨房へ行った。
厨房では朝食の準備に追われていた。
厨房の中は一種の聖域のようであり、
関係者以外は立ち入れぬ
雰囲気があった。
厨房の入り口から覗くと、
又三郎が卵を割っていた。
それも半端な数ではない。
山のような卵、そして卵の殻。
又三郎は二つの卵を一つずつ
両手に握り、いっぺんに
割って、すぐさま殻を足元の
バケツにすて、
次の瞬間にはもう次の卵を
割っていた。
まるで正確な機械仕掛けのようで、
その動作は美しくさえあった。
しばらく見とれていた。
声をかけるのも
はばかられたが、俺は呼んだ。
「又三郎、又三郎」
又三郎の手が止まった。
俺を見とめると、
すぐに駆け出した。
そして俺の首に抱きついた。
俺もしっかりと抱いた。
「おかえりミゲーレ。
今日で七日だものね。
よかった。」
体を離してお互い手を取った。
「今、見てたよ。
すごいな。卵割り。速いな。」
「うん。最初はできなかったけど、
何百個も何千個もやってたら
できるようになっちゃった。」
又三郎の手には卵白も
卵の殻もついていない。
それほど正確な作業を
しているのだ。
「今夜また僕の家に来て。」
「それが、新しく仕事をすることになって。
ゲドウが絵師だって、おまえ知ってた?」
「知ってるよ。」
「今日からモデルをやることになったんだ。」
又三郎の表情が少し曇った。
不安なのか?
俺は再び又三郎を強く抱きしめた。
「朝と晩の祈りの時間に
やることになった。
おまえの家には安息日に行っていい?」
「安息日にしか、二人で会えないの?」
「おまえは厨房で、俺は現場だから、
なかなか時間が合わないな。
でも短い時間でも、どっかで時間を
みつけよう。」
「わかったよ。」
「さあ、もう戻れよ、親方にどやされるぞ。」
「うん。じゃあね。」
又三郎は仕事に戻っていった。
厨房へ行った。
厨房では朝食の準備に追われていた。
厨房の中は一種の聖域のようであり、
関係者以外は立ち入れぬ
雰囲気があった。
厨房の入り口から覗くと、
又三郎が卵を割っていた。
それも半端な数ではない。
山のような卵、そして卵の殻。
又三郎は二つの卵を一つずつ
両手に握り、いっぺんに
割って、すぐさま殻を足元の
バケツにすて、
次の瞬間にはもう次の卵を
割っていた。
まるで正確な機械仕掛けのようで、
その動作は美しくさえあった。
しばらく見とれていた。
声をかけるのも
はばかられたが、俺は呼んだ。
「又三郎、又三郎」
又三郎の手が止まった。
俺を見とめると、
すぐに駆け出した。
そして俺の首に抱きついた。
俺もしっかりと抱いた。
「おかえりミゲーレ。
今日で七日だものね。
よかった。」
体を離してお互い手を取った。
「今、見てたよ。
すごいな。卵割り。速いな。」
「うん。最初はできなかったけど、
何百個も何千個もやってたら
できるようになっちゃった。」
又三郎の手には卵白も
卵の殻もついていない。
それほど正確な作業を
しているのだ。
「今夜また僕の家に来て。」
「それが、新しく仕事をすることになって。
ゲドウが絵師だって、おまえ知ってた?」
「知ってるよ。」
「今日からモデルをやることになったんだ。」
又三郎の表情が少し曇った。
不安なのか?
俺は再び又三郎を強く抱きしめた。
「朝と晩の祈りの時間に
やることになった。
おまえの家には安息日に行っていい?」
「安息日にしか、二人で会えないの?」
「おまえは厨房で、俺は現場だから、
なかなか時間が合わないな。
でも短い時間でも、どっかで時間を
みつけよう。」
「わかったよ。」
「さあ、もう戻れよ、親方にどやされるぞ。」
「うん。じゃあね。」
又三郎は仕事に戻っていった。

