「いつまで寝てるんだ」

ゲドウが食事を持ってきた。
俺は裸のままだった。

「ここは省みの部屋だぞ。
あんたがここに来てから
一度もひざまずいて
祈ってるところをみてないんだが?」

「こんなに寒くちゃあ、
祈るどころじゃないよ。」

俺はローブを身に着けながら
言った。

「今朝はまたばかにあったかい。
海の氷も一晩にして溶けちまったよ。」

俺はまだくすぶっている暖炉に
よじ登って窓から海を見た。

「本当だ。全部凍ってたなんて
うそみたいだ。」

「ゆうべはずいぶん盛りがついてたな。」

ゲドウが突然言い出した。
俺は少し気まずかった。

「あいつは初めてだったから
痛かったんだよ。」

俺は見当違いな方向を
見ていった。

「俺は二年間、
ここで番人やってるが、
たった七日間後には会えるっていうのに
あの金額を俺に渡した奴は
初めてだったよ。」

「そうか。」

たった七日間だ。
俺にしてみればそう長い時間ではない。

だが、16歳の又三郎にとっては
がまんできないほどの時間だったのだ。

「おまえは、そんなにも、
愛されるべき人間なのか?!」

ゲドウが、突然俺にそう問うた。
怒っているようにも、
悲しんでいるようにも見えた。

「わからないけど、
少なくとも又三郎は
そう思ってくれたんだろう。」

ゲドウは鼻で笑って、
扉を出て行った。
そしてまた掛け金が何度も
かかる音がした。