「ミゲーレに、僕の持っている魔力を
全部あげられたらいいのに。

ミゲーレだったら、使いこなせるでしょ。」

「そうかなあ。

オギ副院長に魔法を習ってるのか?」

「うん。授業は始まったよ。
でも魔法のことなんか全然やらないんだ。」

「じゃあ、何やってるんだ?」

「あのね、副院長様の部屋って、
たっくさんのブローチがあるんだ。」

「ブローチ?」

「そう。副院長様の部屋には
たくさんの引き出しがあって、

全部の引き出しに
きれいに並べてあるんだ。」

「へえ。あの人そんな趣味があるんだ。」

「僕が行くと、机の上に
いくつかのブローチを並べて、
どれが一番好きって訊くんだ。

ブローチはいろんな形してて、
ふくろうや、バラや、骸骨や、
飛行機や、家や、音符や、きのこ
とか、ほんとにいろいろ。

色も素材も全部ちがう。

金銀、鉄、七宝焼き、ガラス、
布、毛糸、
一つとして同じものがない。

でも僕に選ばせるブローチ達には
必ず共通点が一つあって、
小鳥なら、いろんな素材で作られた
小鳥。
鉄なら、鉄で作られたいろんな形。
同じ色でそろえたちがう形っていう時も
あったな。」

「へえ。」

「それから、家族のこととか、
アイリスのこととか、ミゲーレのこととか、
ただおしゃべりするだけ。」

「そうか。たぶん、オギ副院長は、
おまえのことを見極めているんだな。

まずはおまえの精神が安定していないと
魔法は使えないということだと思う。」

「そっかー。」

「今日のこと、話す?」

「話したら、
今度は僕がここに入らなくちゃならないかな。」

「ふつうはそうだけどな。」

気が付くと、吹雪はおさまり、
外は静まり返っていた。

時おり、地鳴りと共に
海の氷が割れる音がした。

ゆっくり、ゆっくりとミカエル山を
取り囲んでいた氷は動き出し、
溶けていった。


「僕、もう行かねば。」

懐中時計を見ると二時半だった。

「全然寝てなくて、大丈夫か?」

「あとで昼寝するよ。」

又三郎はローブを身に着けた。
部屋から出て行くとき
俺にキスした。

又三郎が去ったあとも、
又三郎のぬくもりの残る毛布を
抱いた。