省みの部屋に来て数日経った。

ここへきてからというもの、
寒くて、ずっとベッドの中で丸まっている。

たまに窓から外を見ると、
もう一面、氷で閉ざされていた。
ミカエル山を取り囲む海が
全部凍ってしまっている。

異常だった。

明らかにこれは自然の状態ではない。
又三郎が暴走している。

これでは完全にミカエル山は
孤立してしまう。

食料の備蓄は充分にあるだろうが、
巡礼客も足止めを余儀なくされている
ことだろう。

又三郎のことを想っていた。
どうして暴走する?
早く会いたい。



夜、消灯時間を過ぎてから、
俺の独房の鍵を開けて
入ってくるものがあった。

掛け金が何度かはずれる音がして
扉が開いた。

現れたのは又三郎だった。

又三郎は青白い顔をしていて、
天使のようにも、幽霊のようにも見えた。

又三郎は慎重に扉を閉めた。

しばらくその場に立ち尽くしていた。
俺は信じられなくて、
二人とも黙っていた。

「こっちへ来いよ。」

俺は呼んだ。
又三郎を暖炉にあたらせた。
それでも又三郎はがたがた震えている。

「どうやって入ってきたんだ?」

「ゲドウにお金をあげたんだ。
今日は僕の初めての給料日だったから、
全部あげた。」

「ええ。おまえ、それでよかったのか?」

「ミゲーレがここに入った日、
ゲドウに会わせてくれって頼んだんだ。
僕はここにいつも食事を運んでるから。

そしたら、会わせてやってもいいけど、
それなりの物を渡せって言われた。」

「まあ、そうだろうな。」

「だから今日まで会えなくて、
とても寂しかったよ。」

「おまえ、この寒さ、おまえの力か?」

「わからない。でもきっとそうなんだろうね。」

又三郎はうつむいた。

「ごめんよ。この前は。殴って。」

「ううん。平気だよ。あの日はなんだか。
混乱してて、何が起こったのか
よく覚えてないんだ。
たしかに、
ミゲーレに殴られた感触は残ってるけど。」

「うん。」

又三郎のひざの上で組んだ手は
震えている。
俺はその手をつかんだ。

又三郎がある覚悟をもって
ここに来たことを感じた。