冥王星

ニコルが省みの部屋から出てくると、
すぐに攻撃魔法の練習がはじまった。

副院長との話し合いの中でも、早く
又三郎に攻撃魔法をつかいこなす能力を
身に着けさせようということになったらしい。

「攻撃魔法には属性がある。

火と氷、風と雷、あとは破壊物理だ。
破壊物理というのは爆発のようなものだ。」

午後の労働のあとの時間、
大聖堂の前でニコルが教えた。

破壊物理の呪文を唱えてみる。
俺が唱えても何も起こらない。

又三郎は口の中で、舌をもつらせながら
ぎこちなく呪文を唱えてみた。

すると、地面が揺れ、ものすごい轟音が起こった。
何か決定的な打撃がうがたれた。
巨大な石が砕ける鈍い音がした。

目を見張った。

大聖堂に巨大な亀裂が斜めにはしり、
大聖堂上部が滑り落ちていくのだ。
時間が、その部分だけものすごく
ゆっくり流れているように、
その様がはっきり見えた。

滑り落ちた大聖堂の屋根は
そのまま海に落ちていった。

又三郎は腰を抜かしてへたりこんでいる。
俺とニコルは目を見合わせた。

二人とも声もでなかった。

人々が、何事かと集まってきた。
ぶち壊れた大聖堂を前に誰もが唖然とする。

又三郎は震えながら俺の足元にすがってきた。
何か言おうとしているが、
言葉にならない。

こいつを掬い上げてやらなければ、
という衝動に突き動かされ、
俺は又三郎のむなぐらをつかんで、
拳で殴った。

又三郎が声を上げた。

「痛いか?泣け。」

俺は感情を爆発させた。
それを力に変えてさらに殴り続けた。
又三郎は殴られるたび声を出した。

馬乗りになって拳をふり続ける俺を、
数人の男が又三郎から引き剥がした。

「ミゲーレ、何をしているんだ!」

ニコルが言った。

見ると又三郎の顔は腫れ上がっていた。
ニコルがその場で回復させた。

みなが呆然としていると、
大僧正オーベール師が現れた。

「怪我をしたものはいないかね?」

幸い大聖堂の中に人はいなかった。

オーベール師は破壊された大聖堂を
しげしげとながめている。

「現場監督のヨセフはいるかね?」

オーベール師が呼んだ。
ヨセフは動揺しながらも人を掻き分けて
師の前へ出た。

「壊れた部分の状態をくわしく調べてくれるかね?
それから残骸の片付けをたのむ。」

オーベール師の指示を受けて、
みなは冷静さを取り戻した。

「みんな、持ち場へもどりたまえ。
ニコルと、ミゲーレと、又三郎は私と来なさい。」