冥王星

「マリアも、おまえのことを好きだ。
だったら、何の問題もないじゃないか。」

「問題がないとは?」

「抱け。」

トラビスは応えない。
しばらくして言った。

「12歳のとき、貞節の誓願を立てた。」

「そんなの守ってる奴いないよ。」

「僕はキリスト者でありたい。」

「知るか」

そう言いながら、俺はツチノコ司祭を思い出し、
たしかに不潔に感じた。
あんなふうになりたくないと思うのがふつうだ。

「でも、金で女を買うことと、愛し合うことは、ちがう。」

俺はそう言った。

「ミゲーレは?ここへ来る前、恋人はいたのか?」

「恋人ねえ。むずかしい質問だな。
とにかく、女を抱いたことならあるよ。」

「それは娼婦だったのか?それとも恋人か?」

「娼婦ならたくさん買ったよ。
でもそもそも、俺が、道化師になったのは女を愛したせいなんだ。」

「きかせてくれ。」

「俺が東の霊山出身だっていうのは知ってる?」

「きいたことあるよ。誰からとなく。」

「俺はもともとは回復魔法も、防御魔法も、使えていたんだ。」

「ああ、なるほど。」

「俺が山を降りてすぐ、瀕死の戦士が行き倒れててな、
回復魔法をかけたが、完治しなかった。
それほど重症だったんだ。

なので、そこから一番近い回復の泉に連れて行った。
洞窟で鎧兜を取ると、その戦士は女だったんだ。

すっかり回復したその女と交わった。

俺は当時、僧侶だったが、
今のあんたみたいに悩む隙もなかった。

数日間、そこで女と過ごした。
その間に、俺の霊力が失われているのに気づいた。

女がひざをついてあざを作ったとき、
治してやろうとしたら魔法が使えなかった。

女は泣いたよ。自分が悪いんだって。
でもそいつが悪いんじゃないよ。
俺が愚かだったのさ。

そのかわり、不思議だが、女は回復魔法を使えるようになった。
ようするに吸い取られちまったってことなのか。」

ようやく表情を和らげたトラビスが小さく笑った。

「ある朝目が覚めたら、女はいなくなってた。
ほんの短い間だったけど、恋人といったらそれが恋人かな。
短いけど、濃厚だった。

それから、まあいろいろあったけど、
道化師としてここへ来たとき、オーベール師に、言われたんだ。」