冥王星

剛力に誘われてルイーダの店で飲んでいた。

カウンターの奥をのぞくと、確かに細い上り階段があった。
しかし、せむしはこの店の奥には二つの階段があるといっていたが、
それは見当たらない。

「何を探してるの?」

ルイーダが言った。

「ここにはロマ人の親子が住んでるってきいたが。」

「あら、ミゲーレもご所望?どっちがいいの?
子猫ちゃん?それとも雌豹?」

「いや、今日はいいんだ。どこにそんな空間があるのかと思って。」

「不思議でしょう?特別に見せてあげるわ」

ルイーダがカウンターの中に入れてくれた。
店の突き当たりのすぐ手前に、屏風があり、その影に階段が隠れていた。

「この上があの人たちの家よ。仕事場とも言えるかしら。
客はね、上の入り口から入るの。
表からは、中に女がいることはわからないわ。」

俺は席にもどった。
人が、生きていく方法は人それぞれだが、
それを選べる人間と選べない人間がいるんだ。

「まだほんの子供なのに、かわいそうにな。」

剛力が言った。

「私を悪どい人間だと、思わないでよね。部屋を貸してやってるんだから。
こんなところじゃ、たちんぼうもできないでしょう。
こうでもしなきゃ、あの人たち、商売できないじゃない。」

ルイーダが言った。

「あんたたち修道士の中にだって、
お小遣いをためて買ってる人もいるんだから。」

一応、修道士の労働に対して賃金が支払われていた。
しかし、衣食に住むところも全て修道院から提供されているので、
手取りは本当にお小遣い程度だ。
修道院内に、銀行のような、個人の現金を管理してくれる部署があった。

「でも、私は必要悪だと思うわよ。
修道士だって人の子だもの、女を抱きたいと思って当然じゃない。
それが普通よ。」

ルイーダは剛力のあごをなでた。

そのとき、店に入ってきたものがあった。

驚いた。
トラビスだ。