冥王星

一流の娼婦というのは、頭が良く、知識も豊富で、
話していて面白いと男に感じさせる。
ヴェロニカはおそらくそんな娼婦だろう。

「娘がお世話になっております。ただし、
この娘と仲良くしたいのであれば、
ルイーダをとおしていただけます?

修道士さまには特別ご奉仕させていただいておりますの。
おこづかいが大変でしょうから。」

トラビスの顔は能面のように凍りついた。
俺は思わず言った。

「それはこの方に対する侮辱じゃないですか?!」

「いいんだ、ミゲーレ。」

「あら、余計なことを申し上げましたわ。
ごめんあそばせ。」

ヴェロニカはマリアの手をとってさっさと歩いていった。
マリアは泣き出しそうな顔でトラビスを振り返った。

傷ついたトラビスは、それでも笑顔でマリアを送り出した。

なんだあの女は。
俺が修道士でなければ殴っていた。







(この前、博士に、母の愛は海よりも深いとかぬかしてたけど、大嘘だろ?)

(あれ、テキトーに言ったんだ。)

(やっぱり。海よりも深いっていうより、海よりも恐ろしいっていう方が正解じゃない?)

(たしかに、あのヴェロニカって奴は最低だな。)

(ほんとだよ。トラビスはマリアのこと好きなのに、必死で我慢してるんだ。)

(なんか、見ててつらい、なんとかしてやりたい。)

(でもどうにもできないよ。トラビスは信仰深いもの。)

(信仰ってやっかいだな。俺、やっぱりここの信仰ってやつが、よくわからないよ。)