冥王星

「どの話をすればいい?」

「君は聖書でどの話が好き?」

「キリストの生誕の話は好きだな。」

「それは、みんな好きだ。でもそれはせっかくだからクリスマスの時にしよう」

「じゃあ、ノアの箱舟の話はどうだろう?」

「ノアの箱舟ききたい!」

子供たちから声が上がった。
みんなは車座になって座った。

マリアはさりげなくトラビスの傍らに横座りし、子供らしく、
トラビスの腕につかまっている。

俺は旧約聖書のノアの箱舟の物語をした。
ノアの箱舟の話はただでも劇的でおもしろいお話だ。

話しているうちに、つい、勝手に枝葉をつけ、
起承転結をつけ、盛り上げた。

子供たちは大喜びだったが、トラビスは言った。

「とっても楽しかったけど、これは日曜学校なんだから、
聖書の話を勝手に変えちゃだめだよ。」

みなますます喜んだ。

マリアはトラビスをにっこりと見つめてぎゅっと腕に体をつけた。
トラビスは瞬間、硬直した。

小さな子供たちは大人の講話が終わるまで、勝手に遊び始めた。
そのとき、マリアがトラビスに話しかけた。

「トラビスさま、神様は、どんな罪人でもお許しくださるって本当ですか?」

「本当だよ。神様は、ひとり子をおあたえになるほど私たちを愛された。
イエズス様は私たちの罪を背負って犠牲になられたのだから。」

「わたし、罪を犯しているの。とても深い罪です。」

トラビスはとても苦しそうな表情をしていた。

「祈ろう。わたしも君のことを祈るよ。」

その時、低い女の声がした。

「助祭さま、日曜学校、ありがとうございました。」

ヴェロニカだ。
知的な話し振りだった。