もう、翌日、
ニカイアは旅立つことになった。
ニカイアには
たいした荷物もなかった。
本当に、身ひとつだ。
厨房の親方が、
宿舎の部屋に現れた。
「ニカイア、
もう出発するんだって?」
「そうです。」
ニカイアは修道士の
黒いローブをまとった。
もう修道士ではなくなるが、
ニカイアにはこれしか
装備がない。
「それにしても、
急にでかくなったなあ。
おまえ。」
親方はあらためて
ニカイアを眺めた。
たしかに、
最初にニカイアを
まかされたとき、
俺よりだいぶ小さかった。
まだ子供だった。
しかし今、身長は
追い抜かされそうなくらいだし、
体の厚みが
あの時とまるで違っていた。
「俺の作る飯がうまいんで、
たくさん食べて
大きくなったんだろう。」
親方は快活に笑った。
「おまえに
土産をやろうと思ってな。
ちょっとついてきな。
ニコルたちも一緒に。」
向かったのは
意外にも馬舎であった。
馬舎は
そんなに広くないが、
数頭の馬がいた。
そのうちの一頭を
ニコルにひかせた。
「こいつはな、
もう歳をとってるから、
そのうちに
ばらそうと思ってたんだ。
しかし、
なんだか情がわいちまって、
ずっとそのままにしてたんだ。」
ニカイアの瞳が輝いた。
感情がこみ上げてきている。
こんなニカイアは全く、
見たことがなかった。
「ロマリアまで、行くんだろう?」
「そうです。
俺はロマリアの軍隊に
入るつもりです。」
「だったら、こいつが必要だ。
歩いてなんて、
とても行けないからな。」
親方が言った。
ニカイアは、
老いた馬の鼻づらに触れ、
そして顔を寄せた。
馬のにおいをかいだ。
しばらく目を閉じていた。
ニカイアは騎士なんだ。
もともと、
ロマリアに敗れた身だが、
ロマリアに従軍してでも、
騎士で、戦士で、
ありたいんだ。
「ニコル、古くなった、
鞍とか馬具がないかな?」
親方が言った。
「探してみよう。」
ニコルが馬具小屋の中から、
もはや入用でなくなった、
馬具をすっかり用意した。
ニコルが出してくると、
ニカイアはいちいち、
道具をかかげ、
なつかしそうにした。
そして慣れた手つきで、
鞍やくつわを装着していった。
「おまえも、
少しだけ寿命が延びたな。」
親方は笑いながら、
馬の背をたたいた。
ニカイアは旅立つことになった。
ニカイアには
たいした荷物もなかった。
本当に、身ひとつだ。
厨房の親方が、
宿舎の部屋に現れた。
「ニカイア、
もう出発するんだって?」
「そうです。」
ニカイアは修道士の
黒いローブをまとった。
もう修道士ではなくなるが、
ニカイアにはこれしか
装備がない。
「それにしても、
急にでかくなったなあ。
おまえ。」
親方はあらためて
ニカイアを眺めた。
たしかに、
最初にニカイアを
まかされたとき、
俺よりだいぶ小さかった。
まだ子供だった。
しかし今、身長は
追い抜かされそうなくらいだし、
体の厚みが
あの時とまるで違っていた。
「俺の作る飯がうまいんで、
たくさん食べて
大きくなったんだろう。」
親方は快活に笑った。
「おまえに
土産をやろうと思ってな。
ちょっとついてきな。
ニコルたちも一緒に。」
向かったのは
意外にも馬舎であった。
馬舎は
そんなに広くないが、
数頭の馬がいた。
そのうちの一頭を
ニコルにひかせた。
「こいつはな、
もう歳をとってるから、
そのうちに
ばらそうと思ってたんだ。
しかし、
なんだか情がわいちまって、
ずっとそのままにしてたんだ。」
ニカイアの瞳が輝いた。
感情がこみ上げてきている。
こんなニカイアは全く、
見たことがなかった。
「ロマリアまで、行くんだろう?」
「そうです。
俺はロマリアの軍隊に
入るつもりです。」
「だったら、こいつが必要だ。
歩いてなんて、
とても行けないからな。」
親方が言った。
ニカイアは、
老いた馬の鼻づらに触れ、
そして顔を寄せた。
馬のにおいをかいだ。
しばらく目を閉じていた。
ニカイアは騎士なんだ。
もともと、
ロマリアに敗れた身だが、
ロマリアに従軍してでも、
騎士で、戦士で、
ありたいんだ。
「ニコル、古くなった、
鞍とか馬具がないかな?」
親方が言った。
「探してみよう。」
ニコルが馬具小屋の中から、
もはや入用でなくなった、
馬具をすっかり用意した。
ニコルが出してくると、
ニカイアはいちいち、
道具をかかげ、
なつかしそうにした。
そして慣れた手つきで、
鞍やくつわを装着していった。
「おまえも、
少しだけ寿命が延びたな。」
親方は笑いながら、
馬の背をたたいた。

