冥王星

ニカイアは毎日、
これでもか
というほどに大食いした。
そしてまさに
日に日に身長も伸び、
筋骨たくましくなっていった。


そんなある晩、
就寝時間前に
事務員のねずみが、
寝室に入ってきた。

「えーっと、ニカイア、
手紙だよ。お父さんから。」

ニカイアに封筒を渡すと、
ねずみは忙しそうに
出て行った。

二段ベッドの上で、
封筒を持つ
ニカイアの手が震えていた。

ニカイアは恐怖していた。

なぜだろう。

「早く、開けないの?」

又三郎が楽しそうに言った。

そうだ、
家族から手紙が届いたら
うれしくて、
すぐに開けずには
いられないのが普通だろう。

ニカイアは
全く喜んではいない。

しばらく、
震える手で持つ封筒を
見つめていた。

開封しようか、すまいか、
悩んでいるようにも見えた。

だが、やがて、
恐ろしさを
迎え撃つかのように
封筒をびりびりと破り、
中の便箋を取り出した。

又三郎は驚き、
不思議そうに
その光景を見ていた。


ニカイアは手紙を読んでいる。


便箋は一枚きりのようだった。
ずっと、
手紙に目を落としたままだ。

「なんて、書いてあるの?」

又三郎が声をかけた。


ニカイアは
しばらく黙っていたが、
やがて、にやりと笑った。

とても恐い顔だった。

「16歳の誕生日おめでとう。
私は水道橋工事に励んでいる。
君も、立派な修道士目指して、
神の御心にそうように。」

手紙を読み上げ、
そして便箋を引き裂いた。

「なにするんだよ!」

又三郎が言った。

ニカイアは
父親からの手紙を引き裂き、
そして手で
わしづかみにして丸めた。

それをベッドの上から
床に向かって投げつけた。

そしてこちらに背を向け、
布団をかぶった。

又三郎は、ベッドから降りた。

「ニカイア、
なんてことするんだよ。
お父さんからの手紙を。」

又三郎は、
丸めて捨てられた
手紙を拾った。

そしてそれを
丁寧に広げ
しわをのばしていった。

又三郎は
物書き机に腰掛けて、
破かれた手紙の
修復作業にとりかかった。

「全くもう、
なんて馬鹿なことを・・・」

そんなことをつぶやきながら、
ランプの灯火をたよりに、
裂かれた部分を
糊で接いでいるようだった。

俺は、
布団をかぶったまま
ぴくりとも動かない
ニカイアを見ていた。

悲しい気持ちがした。