臓物をかっ食らう
ニカイアに俺は言った。
「そうだ、おまえ、
16歳になっても、
生きてる。」
「どういうこと、それ?」
又三郎が訊いた。
ニカイアが答えた。
「そうだ。たしかに。
16歳まで生きてるような
気がしなかったんだ。」
又三郎が驚いて言った。
「なんで?」
「自分に、未来があるって、
思えなかった。」
「どうして?」
ニカイアは皿を置いた。
「ニカイアの街が陥落して、
父上が奴隷になったから。
父上は自死を望んでいたから。」
又三郎は
乗り出すような体勢になった。
「それは、
君のお父さんがそうであっても、
君には君の未来が
あるじゃないか。」
「そんなの、理屈だろ。」
又三郎は顔をかたむけた。
納得できない様子だ。
俺が言った。
「ニカイアは、
お父上を尊敬していたんだな。」
「そうだよ。
父上のような騎士になりたくて、
小さな頃から馬術や剣術の
稽古をしていたよ。」
ニカイアは
調理台の上にあった
台布巾で顔をぬぐった。
「ニカイアが陥落した日、
騎士である父上は死んだ。
騎士を目指していた
俺も死んだ。」
「だけど、
君は今生きてるし、
君の父上だって、
生きているんだろう?」
又三郎が
ニカイアに語りかけた。
「肉体はな。」
答えたニカイアの声は
かすれていた。
そのかすれ声のまま続けた。
「そしたら、全然関係ない、
ロメオって奴が、
なぜだか俺が
16歳になった日に、
首吊って死んだ。」
代理死。
幼少の頃のニカイアは、
騎士である父親と、
自分自身を同一視していた。
基本的に、
それは今も変わっていない。
騎士ではなくなった父親を
受け入れていないんだ。
そしてニカイア自身の
自分の生も
受け入れてなかったんだ。
だから、あんなに、
亡霊みたいに突っ立って、
この世界を
ぼんやり眺めている
だけだったんだ。
そんな中、
突然に起こった、他人の死。
それが、
騎士になれなかった
ニカイアの、
そして敗北した父親の、
代理死となった。
だから、
生まれ変わったかのように、
新しく生き始めた。
それが、今のニカイアでは
ないだろうか。
ニカイアに俺は言った。
「そうだ、おまえ、
16歳になっても、
生きてる。」
「どういうこと、それ?」
又三郎が訊いた。
ニカイアが答えた。
「そうだ。たしかに。
16歳まで生きてるような
気がしなかったんだ。」
又三郎が驚いて言った。
「なんで?」
「自分に、未来があるって、
思えなかった。」
「どうして?」
ニカイアは皿を置いた。
「ニカイアの街が陥落して、
父上が奴隷になったから。
父上は自死を望んでいたから。」
又三郎は
乗り出すような体勢になった。
「それは、
君のお父さんがそうであっても、
君には君の未来が
あるじゃないか。」
「そんなの、理屈だろ。」
又三郎は顔をかたむけた。
納得できない様子だ。
俺が言った。
「ニカイアは、
お父上を尊敬していたんだな。」
「そうだよ。
父上のような騎士になりたくて、
小さな頃から馬術や剣術の
稽古をしていたよ。」
ニカイアは
調理台の上にあった
台布巾で顔をぬぐった。
「ニカイアが陥落した日、
騎士である父上は死んだ。
騎士を目指していた
俺も死んだ。」
「だけど、
君は今生きてるし、
君の父上だって、
生きているんだろう?」
又三郎が
ニカイアに語りかけた。
「肉体はな。」
答えたニカイアの声は
かすれていた。
そのかすれ声のまま続けた。
「そしたら、全然関係ない、
ロメオって奴が、
なぜだか俺が
16歳になった日に、
首吊って死んだ。」
代理死。
幼少の頃のニカイアは、
騎士である父親と、
自分自身を同一視していた。
基本的に、
それは今も変わっていない。
騎士ではなくなった父親を
受け入れていないんだ。
そしてニカイア自身の
自分の生も
受け入れてなかったんだ。
だから、あんなに、
亡霊みたいに突っ立って、
この世界を
ぼんやり眺めている
だけだったんだ。
そんな中、
突然に起こった、他人の死。
それが、
騎士になれなかった
ニカイアの、
そして敗北した父親の、
代理死となった。
だから、
生まれ変わったかのように、
新しく生き始めた。
それが、今のニカイアでは
ないだろうか。

