「よう。ミゲーレ。」
口の周りを
トマトソースだらけにして
ニカイアが声をかけた。
食器を洗っていた
又三郎が振り向いた。
「ミゲーレ。ニカイアが、
腹が減ったって言うから、
お昼の残りをあげたんだ。」
「よく食うな。」
「うまいよ。これ。
ミゲーレなんで
食わなかったの?」
俺は答えに詰まってしまった。
仕事を片付けた又三郎が
前掛けで
手を拭きながら言った。
「親方も、
よりによって今日、
臓物の煮込みなんかに
しなくてもいいのにな。」
他の者も、
食う気がしなかったらしく
煮込みは大量に残っていた。
「でもさ、
臓物は下処理は
しておいたけど、
長持ちしないから、
すぐに供さないと
だめなんだ。」
又三郎と俺は、
ニカイアを囲むように座った。
「なるほどな。」
「僕も、もうだめ。
肉に触るだけで鳥肌が
立っちゃって。
でもやるしかないから、
我慢してやったよ。
先輩たちもみんないやがって、
僕に押し付けてさ。」
「そうか。
おつかれ。おつかれ。」
俺は又三郎の肩を
たたいてねぎらう。
俺たちが話している間も
ニカイアは臓物の煮込みを
流し込み続ける。
「ニカイア、本当に、餓鬼に
とりつかれてるんじゃないか?」
「餓鬼ってなんだよ?」
ニカイアはもごもごと言った。
俺はその質問には答えず、
言った。
「ニカイア、おまえ、
どうしたの?
ロメオが死んでから、
なんでそんなに
元気になっちゃったの?」
ニカイアは水を飲み、
口をぬぐった。
「俺、元気になった?」
真顔でたずねてきた。
「うん。それまでは、
おまえはほとんど、
この世界に存在してない
みたいだったよ。
こっちから呼びかけても
ほとんど反応しないし、
何の興味もなさそうだった。
それに、その食欲。
急に、どうしたんだ。」
ニカイアは不思議そうに
俺を見つめ、
それからぼんやりと
なべの中をながめた。
「前に、ミゲーレは、
自分の前に居る奴は総て、
自分のうつし鏡だって
言ってたよな。
自分自身を知るために、
それを見つめるんだって。」
ニカイアは俺を見た。
俺もニカイアを見た。
ニカイアは顔を
トマトソースに汚し、
手には臓物の入った
皿を持っている。
「だったら、
見つめてみたら
いいじゃない。」
なぞだ。
ニカイアは
またも臓物を食し、
さらにおかわりを要求した。
又三郎はあきれつつ、
皿によそってやった。
口の周りを
トマトソースだらけにして
ニカイアが声をかけた。
食器を洗っていた
又三郎が振り向いた。
「ミゲーレ。ニカイアが、
腹が減ったって言うから、
お昼の残りをあげたんだ。」
「よく食うな。」
「うまいよ。これ。
ミゲーレなんで
食わなかったの?」
俺は答えに詰まってしまった。
仕事を片付けた又三郎が
前掛けで
手を拭きながら言った。
「親方も、
よりによって今日、
臓物の煮込みなんかに
しなくてもいいのにな。」
他の者も、
食う気がしなかったらしく
煮込みは大量に残っていた。
「でもさ、
臓物は下処理は
しておいたけど、
長持ちしないから、
すぐに供さないと
だめなんだ。」
又三郎と俺は、
ニカイアを囲むように座った。
「なるほどな。」
「僕も、もうだめ。
肉に触るだけで鳥肌が
立っちゃって。
でもやるしかないから、
我慢してやったよ。
先輩たちもみんないやがって、
僕に押し付けてさ。」
「そうか。
おつかれ。おつかれ。」
俺は又三郎の肩を
たたいてねぎらう。
俺たちが話している間も
ニカイアは臓物の煮込みを
流し込み続ける。
「ニカイア、本当に、餓鬼に
とりつかれてるんじゃないか?」
「餓鬼ってなんだよ?」
ニカイアはもごもごと言った。
俺はその質問には答えず、
言った。
「ニカイア、おまえ、
どうしたの?
ロメオが死んでから、
なんでそんなに
元気になっちゃったの?」
ニカイアは水を飲み、
口をぬぐった。
「俺、元気になった?」
真顔でたずねてきた。
「うん。それまでは、
おまえはほとんど、
この世界に存在してない
みたいだったよ。
こっちから呼びかけても
ほとんど反応しないし、
何の興味もなさそうだった。
それに、その食欲。
急に、どうしたんだ。」
ニカイアは不思議そうに
俺を見つめ、
それからぼんやりと
なべの中をながめた。
「前に、ミゲーレは、
自分の前に居る奴は総て、
自分のうつし鏡だって
言ってたよな。
自分自身を知るために、
それを見つめるんだって。」
ニカイアは俺を見た。
俺もニカイアを見た。
ニカイアは顔を
トマトソースに汚し、
手には臓物の入った
皿を持っている。
「だったら、
見つめてみたら
いいじゃない。」
なぞだ。
ニカイアは
またも臓物を食し、
さらにおかわりを要求した。
又三郎はあきれつつ、
皿によそってやった。

