未明、又三郎が
そっと寝床から抜け出した。
俺に何も言わず。
仕事に行ったのだ。
又三郎は優しい奴だな。
寝具には又三郎の
ぬくもりが残っている。
しばらくして俺たちの
起床時間になった。
たいていのものは
ロメオの葬儀が
行われた礼拝堂で黙想した。
祭壇には花が
手向けられていた。
A Ω
の文字の刻まれた祭壇に
ニコルは手を置き、
佇んでいた。
黙想するオーベール師に
ニコルが話しかけた。
「私の罪であり、
そして罰です。」
オーベール師は
革の帽子を
滑らせるように脱いだ。
しかし、オーベール師の
第三の眼は
これまでのように
対峙した者の正体を
見極めようとする
鋭い眼ではなかった。
オーベール師は
悲しそうだった。
一体、
師はいくつなのだろう。
見当も付かないほど、
古い大木のように
歳をとっていたが、
しかし枯れてはいない。
その師が、
ひとまわり小さく見えた。
ニコルに言った。
「なぜ、そう思う?」
ニコルは
オーベール師の
第三の眼を見た。
この眼をまっすぐに
見られるものが
何人いるだろう。
「私は寮長です。
仲間が、
自ら命を絶つほどに、
苦しんでいたのに、
それに気づきませんでした。
それから、
現場の仕事において、
彼への対応が適切では
なかったのかもしれません。」
オーベール師は
ニコルの肩に手を置いた。
「君が、それを言うのならば、
私はもっと大きな罪を
犯しているよ。
この修道院に
いる者すべて、私の家族だ。
それを守って
やれなかったのだから。」
ずっと、固まったままだった
ニコルの表情が、
わずかに動いたように見えた。
「懺悔をさせてください。」
ニコルが言った。
それから
ニコルとオギ副院長が
礼拝堂を出て行った。
そっと寝床から抜け出した。
俺に何も言わず。
仕事に行ったのだ。
又三郎は優しい奴だな。
寝具には又三郎の
ぬくもりが残っている。
しばらくして俺たちの
起床時間になった。
たいていのものは
ロメオの葬儀が
行われた礼拝堂で黙想した。
祭壇には花が
手向けられていた。
A Ω
の文字の刻まれた祭壇に
ニコルは手を置き、
佇んでいた。
黙想するオーベール師に
ニコルが話しかけた。
「私の罪であり、
そして罰です。」
オーベール師は
革の帽子を
滑らせるように脱いだ。
しかし、オーベール師の
第三の眼は
これまでのように
対峙した者の正体を
見極めようとする
鋭い眼ではなかった。
オーベール師は
悲しそうだった。
一体、
師はいくつなのだろう。
見当も付かないほど、
古い大木のように
歳をとっていたが、
しかし枯れてはいない。
その師が、
ひとまわり小さく見えた。
ニコルに言った。
「なぜ、そう思う?」
ニコルは
オーベール師の
第三の眼を見た。
この眼をまっすぐに
見られるものが
何人いるだろう。
「私は寮長です。
仲間が、
自ら命を絶つほどに、
苦しんでいたのに、
それに気づきませんでした。
それから、
現場の仕事において、
彼への対応が適切では
なかったのかもしれません。」
オーベール師は
ニコルの肩に手を置いた。
「君が、それを言うのならば、
私はもっと大きな罪を
犯しているよ。
この修道院に
いる者すべて、私の家族だ。
それを守って
やれなかったのだから。」
ずっと、固まったままだった
ニコルの表情が、
わずかに動いたように見えた。
「懺悔をさせてください。」
ニコルが言った。
それから
ニコルとオギ副院長が
礼拝堂を出て行った。

