「俺は自分が16歳になるまで
とても生きていると思えない。」
ニカイアの言葉が
あまりに意外すぎて
理解するのに時間がかかった。
「おまえが16歳になるのは、
もう間も無くじゃないか。
どうしてそんな風に思う?」
俺はニカイアのベッドに
腕をついた。
「父上は、父は、いつも
俺は死にぞこないだ、
死にぞこないだって、
言ってたよ。」
ニカイアはぽつり、ぽつりと
話し出した。
「馬も馬具も武器も甲冑も、
全部没収されて、
父はロマリアの
水道橋を作らされてる。
そして家に帰ってきて、
酒をあおって、
なんで俺が
生き残ってしまったんだって、
嘆いていた。
本来ならばニカイアが
征服された時点で、
自害すべきだったと言った。
なぜ自害しなかったのかと
たずねた。
そうしたら、
俺のためだといった。」
「うん。」
ニカイアの金の瞳が俺を見た。
「だが父はいつもつらそうだった。
ロマリアに服従するのが
苦痛だったのだろう。
俺はこれ以上、
父上の負担になるのがいやで、
12歳になると修道院に入った。
俺がいなくなれば、
父上は本来の希望通り、
自死もできるだろうと思った。
だが、父は未だに生きている。
俺が修道院に入ったのに、
まだ生きてる。」
「そうか。」
俺は何度かうなずいた。
俺はほおづえをついた。
ニカイアが
16歳まで生きる気がしない
というのと、
ニカイアの父が持つ
敗北の絶望。
それにはやはり
何か関連があるのだと思う。
ニカイアが充分な食事を
摂ってこなかったのも
生きるつもりがないからだ。
「ニカイア、
もう昼休みは終わりだ。
おまえは現場へ行け。」
俺ははしごを降りた。
ニカイアはずるり、ずるりと
はしごを這い降り、
とぼとぼと出て行った。
俺は床に散乱した食べ物を
拾い集めた。
そして空中回廊に
それを持ってきた。
海に向かって投げた。
海の上には
小魚を狙ったカモメたちが
舞っている。
そいつらがうまく掴み取るか、
そうでなかったら
海の藻屑になって
魚たちの餌になるだろう。
ニカイアに、
生きるつもりがないのなら、
それでもいいような気がする。
人の生き死にに関して、
他人が口を出すようなことでも
ないように思える。
この世界は循環している。
生きるのも、死ぬのも、
自然に任せるしかない。
それは自死も含めて。
自分で
選択しているように見えて、
実はそれも
大きな流れの中で
自然に起こっていること
なのではないだろうか?
とても生きていると思えない。」
ニカイアの言葉が
あまりに意外すぎて
理解するのに時間がかかった。
「おまえが16歳になるのは、
もう間も無くじゃないか。
どうしてそんな風に思う?」
俺はニカイアのベッドに
腕をついた。
「父上は、父は、いつも
俺は死にぞこないだ、
死にぞこないだって、
言ってたよ。」
ニカイアはぽつり、ぽつりと
話し出した。
「馬も馬具も武器も甲冑も、
全部没収されて、
父はロマリアの
水道橋を作らされてる。
そして家に帰ってきて、
酒をあおって、
なんで俺が
生き残ってしまったんだって、
嘆いていた。
本来ならばニカイアが
征服された時点で、
自害すべきだったと言った。
なぜ自害しなかったのかと
たずねた。
そうしたら、
俺のためだといった。」
「うん。」
ニカイアの金の瞳が俺を見た。
「だが父はいつもつらそうだった。
ロマリアに服従するのが
苦痛だったのだろう。
俺はこれ以上、
父上の負担になるのがいやで、
12歳になると修道院に入った。
俺がいなくなれば、
父上は本来の希望通り、
自死もできるだろうと思った。
だが、父は未だに生きている。
俺が修道院に入ったのに、
まだ生きてる。」
「そうか。」
俺は何度かうなずいた。
俺はほおづえをついた。
ニカイアが
16歳まで生きる気がしない
というのと、
ニカイアの父が持つ
敗北の絶望。
それにはやはり
何か関連があるのだと思う。
ニカイアが充分な食事を
摂ってこなかったのも
生きるつもりがないからだ。
「ニカイア、
もう昼休みは終わりだ。
おまえは現場へ行け。」
俺ははしごを降りた。
ニカイアはずるり、ずるりと
はしごを這い降り、
とぼとぼと出て行った。
俺は床に散乱した食べ物を
拾い集めた。
そして空中回廊に
それを持ってきた。
海に向かって投げた。
海の上には
小魚を狙ったカモメたちが
舞っている。
そいつらがうまく掴み取るか、
そうでなかったら
海の藻屑になって
魚たちの餌になるだろう。
ニカイアに、
生きるつもりがないのなら、
それでもいいような気がする。
人の生き死にに関して、
他人が口を出すようなことでも
ないように思える。
この世界は循環している。
生きるのも、死ぬのも、
自然に任せるしかない。
それは自死も含めて。
自分で
選択しているように見えて、
実はそれも
大きな流れの中で
自然に起こっていること
なのではないだろうか?

