食堂に行くと
又三郎を呼んだ。
「ニカイア来たか?」
「来たよ。例のやつ、
ちゃんと渡したから。
最初誰だか
わかんなかった。
変な頭になってて。」
「あれ、俺がやったんだ。」
「そうだと思ったよ。」
又三郎はケタケタ笑いながら
厨房の奥へ引っ込んだ。
俺はニコルに
見つからないように
食堂のすみでこっそり食った。
午前中まるっきり
仕事していないんだ。
何か言われるに決まっている。
食事を終えると
ニカイアの様子を見に行った。
ちゃんと又三郎に頼んだ食物を
食べただろうか。
少年宿舎の
ニカイアの寝床に行った。
すると床に
二つに割れたパンと
鶏肉と野菜が転がっていた。
パンがひとかじりしてあるだけで
挟んであったであろう
肉と緑の野菜には
ニカイアの歯は
到達しなかったようだ。
むかっ腹が立った。
俺は乱暴に寝床の布をはいだ。
「おい、なんで食わないんだ!」
横たわっていたニカイアは
驚いて半身を起こした。
「そんなに食えねえよ。」
俺は二段ベッドのはしごを降り、
突っ立ったまま
打ち捨てられた
肉と野菜を見つめた。
悲しくなった。
俺はまたはしごを昇った。
ニカイアは
俺が引き剥がした布を
もとにもどそうとしていた。
「これ、
おまえに栄養を
つけてもらいたいから
わざわざ親方に頼んで
又三郎が作ってくれたんだぞ。」
「なんでそんなこと、するの?」
俺は深呼吸をした。
「おまえがそんなにやせ細って、
ろくに力も出せないからだ。」
ニカイアはうなだれた。
「そしておまえは
ものを食べているところを
人に見られたくないって言うから、
それを尊重して
こういう風にしたんだ。」
ニカイアは低い声で言った。
「どうしてあんたは、
そんなに俺に関わって来るんだよ。
髪も切られたし。」
「それは仕事だからと
言えばそれまでだ。
だけどそれも縁だからな。」
ニカイアは不思議そうな顔をした。
「縁?」
「俺の周りにいる連中、
俺の前に現れる奴は、
総て俺自身のうつし鏡なんだ。
だから俺はそれを見つめる。
自分自身をよく知るために。」
ニカイアは軽く握ったこぶしに
自分のあごを乗せて
俺の話を聴いた。
はじめて俺の言葉が、
ニカイアに聴こえているようだった。
又三郎を呼んだ。
「ニカイア来たか?」
「来たよ。例のやつ、
ちゃんと渡したから。
最初誰だか
わかんなかった。
変な頭になってて。」
「あれ、俺がやったんだ。」
「そうだと思ったよ。」
又三郎はケタケタ笑いながら
厨房の奥へ引っ込んだ。
俺はニコルに
見つからないように
食堂のすみでこっそり食った。
午前中まるっきり
仕事していないんだ。
何か言われるに決まっている。
食事を終えると
ニカイアの様子を見に行った。
ちゃんと又三郎に頼んだ食物を
食べただろうか。
少年宿舎の
ニカイアの寝床に行った。
すると床に
二つに割れたパンと
鶏肉と野菜が転がっていた。
パンがひとかじりしてあるだけで
挟んであったであろう
肉と緑の野菜には
ニカイアの歯は
到達しなかったようだ。
むかっ腹が立った。
俺は乱暴に寝床の布をはいだ。
「おい、なんで食わないんだ!」
横たわっていたニカイアは
驚いて半身を起こした。
「そんなに食えねえよ。」
俺は二段ベッドのはしごを降り、
突っ立ったまま
打ち捨てられた
肉と野菜を見つめた。
悲しくなった。
俺はまたはしごを昇った。
ニカイアは
俺が引き剥がした布を
もとにもどそうとしていた。
「これ、
おまえに栄養を
つけてもらいたいから
わざわざ親方に頼んで
又三郎が作ってくれたんだぞ。」
「なんでそんなこと、するの?」
俺は深呼吸をした。
「おまえがそんなにやせ細って、
ろくに力も出せないからだ。」
ニカイアはうなだれた。
「そしておまえは
ものを食べているところを
人に見られたくないって言うから、
それを尊重して
こういう風にしたんだ。」
ニカイアは低い声で言った。
「どうしてあんたは、
そんなに俺に関わって来るんだよ。
髪も切られたし。」
「それは仕事だからと
言えばそれまでだ。
だけどそれも縁だからな。」
ニカイアは不思議そうな顔をした。
「縁?」
「俺の周りにいる連中、
俺の前に現れる奴は、
総て俺自身のうつし鏡なんだ。
だから俺はそれを見つめる。
自分自身をよく知るために。」
ニカイアは軽く握ったこぶしに
自分のあごを乗せて
俺の話を聴いた。
はじめて俺の言葉が、
ニカイアに聴こえているようだった。

