俺は地面に積もった
大量の銀髪を集めながら言った。
「これ、どうする?」
ニカイアはしゃがみこみ、
地面に散らばった毛の束を見た。
「くれ。」
俺の集めた毛の束を取り、
そして自分で
落ちている髪をかき集めた。
俺もまた一緒に集めた。
ニカイアの切り落とされた髪は、
丈夫ではじけるようなこしがあった。
まるでニカイア自体の精気を
吸い取っていたかのようだ。
「どうするんだ?」
俺は集めた髪を渡した。
ニカイアは大量の髪の毛を
両手に抱えどこかへ向かった。
俺はあとを追った。
ニカイアは現場と宿舎の
間にある路地の脇に
生えている
古木のもとへ行った。
こんなところに
木があったかというような
忘れられた古木だった。
ニカイアは傍らに
山盛りの毛髪を置いて
古木の根元を手で掘った。
「これを使えよ。」
俺は腰に下げた
道具袋の中から
シャベルを取り出して
ニカイアに渡した。
ニカイアはシャベルを
使って掘り進めた。
充分な深さまで掘ると
丁寧に毛髪を
穴に置いていった。
すっかり髪の毛を
全部穴におさめると、
ニカイアは
銀色の髪の束を
静かに見つめていた。
いつもぼんやりと周囲を
ながめているまなざしとは
ちがっていた。
この髪はニカイアにとって
とても大事なものだったのだ。
俺は申し訳ない気持ちになった。
「どうして
髪を伸ばしていたんだ?」
ニカイアの精神が
この場所に戻ってきた。
そしてしばらく考えてから
話し始めた。
「俺は10歳までは
騎士見習いとして
訓練を受けていたよ。
だけど、あの時以来、
がらりと生活が変わった。」
「ロマリアの進軍。」
俺は言った。
ニカイアは髪の束に
土をかぶせ始めた。
ニカイアはそれ以上
何もしゃべりそうになかった。
「じゃあ、おまえは馬に
乗れるんだな。」
「ああ。」
ニカイアは手のひらで
土をならした。
大切なものを
抱くような手つきだった。
「すごいじゃん。
俺なんか前に初めて
馬に乗せてもらった時
酔っちゃったよ。」
ニカイアが俺を見て
少し微笑んだ。
今まで長い髪に
隠されていた
ニカイアの顔は
卵のようだった。
俺の胸は少しだけ
苦しくなった。
そんなことをしているうちに
もう午を告げる鐘が鳴った。
ニカイアは急いで姿を消した。
結局午前中は散髪で
終わってしまった。
大量の銀髪を集めながら言った。
「これ、どうする?」
ニカイアはしゃがみこみ、
地面に散らばった毛の束を見た。
「くれ。」
俺の集めた毛の束を取り、
そして自分で
落ちている髪をかき集めた。
俺もまた一緒に集めた。
ニカイアの切り落とされた髪は、
丈夫ではじけるようなこしがあった。
まるでニカイア自体の精気を
吸い取っていたかのようだ。
「どうするんだ?」
俺は集めた髪を渡した。
ニカイアは大量の髪の毛を
両手に抱えどこかへ向かった。
俺はあとを追った。
ニカイアは現場と宿舎の
間にある路地の脇に
生えている
古木のもとへ行った。
こんなところに
木があったかというような
忘れられた古木だった。
ニカイアは傍らに
山盛りの毛髪を置いて
古木の根元を手で掘った。
「これを使えよ。」
俺は腰に下げた
道具袋の中から
シャベルを取り出して
ニカイアに渡した。
ニカイアはシャベルを
使って掘り進めた。
充分な深さまで掘ると
丁寧に毛髪を
穴に置いていった。
すっかり髪の毛を
全部穴におさめると、
ニカイアは
銀色の髪の束を
静かに見つめていた。
いつもぼんやりと周囲を
ながめているまなざしとは
ちがっていた。
この髪はニカイアにとって
とても大事なものだったのだ。
俺は申し訳ない気持ちになった。
「どうして
髪を伸ばしていたんだ?」
ニカイアの精神が
この場所に戻ってきた。
そしてしばらく考えてから
話し始めた。
「俺は10歳までは
騎士見習いとして
訓練を受けていたよ。
だけど、あの時以来、
がらりと生活が変わった。」
「ロマリアの進軍。」
俺は言った。
ニカイアは髪の束に
土をかぶせ始めた。
ニカイアはそれ以上
何もしゃべりそうになかった。
「じゃあ、おまえは馬に
乗れるんだな。」
「ああ。」
ニカイアは手のひらで
土をならした。
大切なものを
抱くような手つきだった。
「すごいじゃん。
俺なんか前に初めて
馬に乗せてもらった時
酔っちゃったよ。」
ニカイアが俺を見て
少し微笑んだ。
今まで長い髪に
隠されていた
ニカイアの顔は
卵のようだった。
俺の胸は少しだけ
苦しくなった。
そんなことをしているうちに
もう午を告げる鐘が鳴った。
ニカイアは急いで姿を消した。
結局午前中は散髪で
終わってしまった。

