その夜から
トラビスは毎晩出かけた。

そして決まった時間に
必ず戻ってくるようだった。


ある夜、
未明に戻ってきたトラビスに
声をかけた。

「マリアに会ってるのか?」

トラビスはベッドに
もぐりこみながら言った

「僕は毎晩、
あの納屋で彼女を待ってる。

彼女と会える夜は限られてる。
だから僕は毎晩待ってる。」


日中、
トラビスはつらそうだった。
うつろな目をしていた。

無理もない。
毎晩たいして
休んでいないのだから。

しんどそうに仕事をする
トラビスのことを
ニコルは注意深く見守っている。
何か言いたそうだったが、
相手がトラビスとあっては、
気安く警告もできないようであった。

息を切らしながら
荷を運ぶトラビスに
俺は手を貸した。

「おまえは、
そうしていればいいよ。」

「ミゲーレ、なんだい?」

「万象は必ず動く。
何事も、いつまでもずっと
同じ状態であることはない。」

トラビスは荷を降ろした。

「何のことだ?」

「そうやって、苦しみながら、
自分を責めたり、とがめたり、
あるいはあざけりながら、
関係を続けていけばいいんだよ。」

トラビスはふうっと長い呼吸をした。

そしてわずかながらに微笑んだ。
そこに自嘲はなかった。

俺は言葉を続けた。

「いつか、
どこか落としどころが
みつかるかもよ。

半年後か、一年後か、
わからんけど。」

トラビスは手を止め、
俺を見てにっと笑った。

顔が汚れていた。
それは一人の労働者の姿だ。

またいちだんと
トラビスの実体が
存在感を増した。

そのあと二人は
黙って仕事に戻った。