冥王星

「ミゲーレさん、
このごろ、トラビスさまは
どうしていらっしゃるの?」

マリアは
少女人形とその服を、
猫足椅子に投げ出した。

「トラビスは今、
俺達と一緒に
聖堂の工事をしてるよ。」

「最近、ちっとも
会いに来てくださらないの。」

マリアは古びたソファーに
腰掛けた。

俺はソファーの肘掛に
座った。

「マリア、トラビスから、
金をとったの?」

「ええ。」

俺はしばし言葉を
選んでから言った。

「愛するもの同士が
関係を持つ時、
金のやりとりは
しないものなんだよ。」

マリアは黙った。

又三郎は手に持っていた
温度計をことり、と
棚に置いた。

マリアは静かに
涙を流した。

又三郎がマリアの横に
座り、肩を抱いた。
心配そうにマリアの顔を
のぞいている。

マリアはますます
激しく泣き出した。

又三郎は困惑して
俺を見た。

「マリアはトラビスのこと、
まだ慕っているんだ。」

マリアの涙が無言で
肯定をしている。

又三郎はマリアの頭を
なでてなぐさめた。

俺は自分のてのひらに
あごを乗せた。


どうしたものか。

トラビスはマリアから
金を取られ、
傷ついたと同時に、
実際の交接において、
幻滅したと言っていた。

たぶん、まだ
あどけない少女だ
というトラビスの
もっていた印象と、
もはや娼婦である
実際のマリアの間に
あまりに大きな違いが
あったのだろう。

この件に関しては
俺が関与した部分も大きい。
俺にも責任があると思う。

「君がトラビスを
待っているって、
トラビスに伝えようか?」

俺は泣いている
マリアに言った。

「ええ。お願い。」

マリアは涙をぬぐった。

「じゃあ、又三郎、
俺たちもう戻ろう。」

「うん。」

「待って。」

マリアが引きとめた。